書評 土葬の村
#葬儀納骨
2023.09.04
土葬と聞くとどう感じますか?
土葬の村(講談社現代新書)
「江戸時代の話」「土葬って禁止されているんじゃない」等々でしょうか。そう思われるのも無理はありません。現在の日本での葬儀の99.97%は、火葬だからです(土葬の件数は、年間500件ほど)。
土葬自体は、日本の法律で禁止はされていませんし、現在でも実際に行われています。
親族の方のお葬式をした方ならお分かりと思いますが、死亡届を市町村に提出し受理されると、火葬場で火葬が行われ、遺骨と一緒に「火葬埋葬許可証」が渡されます。この許可証をもって墓地管理者の所へ行くと、お墓に納骨ができます。
お墓に納骨をすることを、埋葬と思っている方が非常に多いのですが、この許可証の埋葬とは「土葬」のことを意味しています。ですから、この許可証は、「火葬か土葬を許可しますという」ことです。
しかしどこの地域でも土葬を行うことができるわけではありません。地方自治体によっては、条例で禁止しているところもありますし、墓地の所有者や管理者が禁止している場合もあります。
大保町では、2010年ごろまでは、ほぼ100%が土葬だったというのに驚きます。つい最近まで当然のごとく土葬を行っていたの地域があったのです。この「土葬の村」という本は、実際に南山城村や大保町などの土葬の風習が残されている地域を訪れて、30年にわたって調査をした記録です。土葬の手順や方法について、かなり細かく調べられている。また、死後の風俗などについても記載されており、気持ち悪がりの方にはあまりお勧めできる本ではありません。このような死者の送り方があるのだ。という興味のある方に読んでいただければと思います。
土葬のやり方は、地方によってさまざまですが、多くの場合数日かけておこなわれること、墓穴掘り(お棺を入れる穴を掘るわけだからかなりの重労働)、野辺送り(葬送の行列が墓場まで隊列をなして進んでいく)等、火葬に比べ、時間や人手、体力やお金もかかることから、また地域によっては、納棺時には、お棺に収まるように足を折ったり、土葬の一定期間後に墓をあばき改葬をするところなどもあり、かなり心理的な負担も大きかったようです。
このようなことや、土葬のしきたりは複雑で、地域によっても異なるため、しきたりを受け継いできた人がいなくなると、土葬を執り行えなくなることなどから、土葬は敬遠され火葬に置き換わっていったと考えられます。
現在土葬を行う場合には、かなり簡略化されており、座棺(座った状態で棺桶に入れる)から寝棺(現在一般的に使われる棺)となり、墓穴を掘るのはショベルカーなどの重機。野辺送りの移動は車でと、葬式の手順も大幅に簡素化しています。
また、現在の土葬事情についても記されています。諸外国では、いまだに土葬は一般的な葬儀方法です。米国では、火葬率は60%位です。保守的な地域では30%とか40%の州もあります。
中国でも同じような状況ですが東部の沿岸地域では、墓所の確保が難しいことから、土葬が禁止されていることもあります。また、地方では儒教の影響により土葬が多数を占めます。
日本では仏教の影響により、火葬に関しての拒否感はあまりなく、昭和初期から火葬が多数となり、現在では殆どが火葬となっています。
しかし最近になって少し事情が変わってきています。キリスト教やイスラム教では、死者の復活が教義にあることから、土葬を望む声が出ています。イスラム教の信者の土葬を受け入れる墓地が、全国的にわずかですが出来てきています。
また「土葬の会」という組織もでき、土葬希望者に対して、土葬ができる墓地の確保や、土葬の実施の手伝い支援を行っています。土葬がこれから増えていくとは思われないが、土葬を望む人がいるのも事実であり、完全になくなってしまうことはないと思われます。