『エイジングフレンドリー・コミュニティ』のご紹介
#書籍紹介 #生活 #社会問題
2025.03.24
『エイジングフレンドリー・コミュニティ』
のご紹介
「エイジフレンドリー」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
高齢者に優しい、高齢者に配慮したなどの意味を持つこの言葉ですが、日本では「エイジフレンドリーシティ(WHOが立ち上げた高齢者に優しい地域づくりに取り組む自治体の国際的なネットワーク)」に秋田市や宝塚市など22市町が参加しており、また厚生労働省は2020年に「エイジフレンドリー(働く高齢者の特性を考慮した)ガイドライン」を策定し、企業向けにエイジフレンドリー補助金制度を設けています。
内閣府の発表した令和6年版高齢社会白書によれば令和5年度の日本の高齢化率(65歳以上の人口)は29.1%とのことですが、今後ますます高齢化が進むことを考えますと高齢者が暮らしやすい環境の整備は急務だと思われます。
ではどのように環境を整えるべきなのか。それを考える参考としてご紹介したいのが鈴木七美著『エイジングフレンドリー・コミュニティ 超高齢社会における人生最終章の暮らし方』です。すべての高齢者が平等に良好な生活を享受できる住居環境を作り上げようと努力している人たちの取り組みを取材したこの本は下記のような構成になっています。
1章. ドイツの多世代コミュニティにおける共生の模索
2章. カナダの日系の人々が創る高齢者の住居施設での多文化共生のあり方
3章. アメリカの継続ケア付きリタイアメントコミュニティ(CCRC)の暮らし
4章. CCRCでの傾聴ボランティアと高齢者の語り合いについて
5章. スイスの多世代対象複合型生活施設に暮らす高齢者のウェルビーイング
6章. 東日本大震災を経験した宮城県のケアワーカーへの聞き取り
7章. 秋田市における高齢者の多様な暮らしぶり
8章. デンマークやスウェーデンにおけるノーマライゼーションの実践
終章.エイジングフレンドリー・コミュニティの存在意義について
1章で印象的だったのは、多世代集合住宅の住人が様々なトラブルや衝突を抱えながらも「多世代、異なる者が分断せずにともに過ごすことを手放したくない」、「共生は人生の目的」と語っていたことです。3章のキリスト教再洗礼派メノナイトのコミュニティは、入居者の宗教は問わず、創立の精神に基づき「金が払えなくなったとしても、決して出て行ってもらうようなことはありません」と話し、様々な施設を備える一方、教会、大学、病院、認知症施設、精神病者施設などとも連携して、どのような境遇になっても最後まで自分らしく暮らすことができる環境を整えていました。8章では障害者や認知症患者でも平等に豊かに人生の最終章を過ごせるよう努力を続ける北欧のノーマライゼーションの実践を知ることができます。
また、どの章においても高齢者本人によるボランティア活動が人生に張り合いや生きがいをもたらし、心の豊かさや安定に繋がっていることを感じさせられました。もちろんボランティア活動は強制ではありませんし、政府や自治体の公助を見限っての共助であってはなりませんが、高齢者でなくとも「自分の存在が他の人の支えや助けになる」という実感は幸福感や自己肯定感を養うこととなると思われます。
世代間格差や分断が取り上げられることの多い日本ですが、異なる文化や世代、多様な個性を持つ人々による共生の実践を読むことで、まだ出来ることはあると希望を持つことができるのではないでしょうか。