事例「助けてほしい」と言えることの大切さ
#支援事例
2025.10.27

助け合い村が団地の商店街で事務所を開いていた頃のことです。
ある日の午後、高齢の女性が切羽詰まった顔で、「いろんなことがわからなくなってた。助けてください」と事務所に飛び込んできました。その表情は真剣でした。
助けを求めたことが新しい暮らしの始まりでした
この女性Aさん(80歳)は病気で通院しながら団地で一人暮らしをしている方でした。独身で身寄りはなく姪っ子はいるが行き来はないこと、喫茶店のウエイトレスや映画館の切符切りや売店店員の仕事などをして頑張ってきたこと、最近は料理ができなくなり外食や総菜ばかり食べていること、楽しみは駅まで行ってお店を見て歩いたり、そこで知り合った人とおしゃべりしたり散歩をすること、などを話してくれました。
Aさんの不安は、最近物忘れが増えてきたこと、貯金や年金など金銭的に大丈夫なのかということ、よく眠れなくなったこと、一人暮らしで寂しいこと、入院や亡くなった時も含めた今後のこと、そして何よりも相談する人が誰もいないことでした。
頑張って一人暮らしをしていましたが、お店のレジでパニックを起こし、「何もかもわからなくなった、誰か助けてください」と大きな声を上げたところ、その場にいた方がこの事務所に案内してくれたようでした。
ご自宅の中を見せていただくと、掃除もよくされていて、きれいなお部屋でしたが、ひとつで事足りる高額な品物が複数あったり、冷蔵庫の中には卵パックがいくつもあるなど判断力が落ちていることがわかりました。預貯金通帳も見せていただきましたが、収支のバランスは崩れていて、このままでは、1年以内に底をついてしまうことは明らかでした。自宅での一人暮らしが難しいのは、Aさん本人も自覚していて、施設入所をすすめることになりました。
必要な支援は、金銭管理、行政手続き、医療、介護手続き、団地の解約、引越し手配、水道光熱費の解約等多岐に渡りました。また、入所や入院するときに備えての身元保証、亡くなった時の葬儀や納骨などの死後対応も必要でした。
ケアハウスに入所したAさんは、「食事もおいしく、お友達もできておしゃべりが楽しい」と喜んでいました。コ-ヒ-が大好きで、愛用セットを持ち込み、私が訪問するといつもおいしいコ-ヒ-を淹れてくれました。2年ほど元気で過ごしていたAさんですが、その後体調が悪化して要介護3になり、特別養護老人ホームに移りました。
「あの日、助けてくださいと言って本当によかった」とAさんは訪問するたびに言っててくれました。
時々、今は亡きAさんの淹れてくれたコーヒーを思い出します。